冒認出願された商標とその対抗策と救済措置
冒認出願とは
冒認出願とは、他人の商標を無断で出願し、それによって自分のものとする行為を指します。具体的には、ある企業が商標登録をしていない新製品やブランド名を他の企業や個人が先に出願し、登録を受けるケースを指します。
冒認出願による脅威
この冒認出願によって何が脅かされるかと言うと、原創作者や正当な商標の所有者の権益が侵害される可能性が高いです。具体的なリスクとしては以下のようなものが考えられます。
商標権の損失 | 最も直接的なリスクは、自社のブランドや製品名の商標権を失うことです。商標が他者によって先に登録されてしまうと、その商標を使用する権利が他者に移ってしまいます。 |
---|---|
権利行使の制約 | 自社が長年使ってきたブランド名や製品名について、商標登録された他者から使用停止や損害賠償請求を受ける可能性があります。また、自社が出願したいと考えていた商標が既に他者に登録されていると、新製品や新サービスの開発や事業展開に支障をきたすこともあります。 |
市場での信用・評価の損失 | 自社のブランド名や製品名が他者によって出願・登録され、その事実が公になれば、市場での信用や評価を失う可能性もあります。特に新興企業の場合、ブランドイメージや信用の損失は、ビジネスの成功に大きな影響を及ぼす可能性があります。 |
以上のように、冒認出願は企業の財産である商標の保護という観点から非常に大きな脅威となりえます。早期に適切な対策を講じることで、これらのリスクを未然に防ぐことが可能です。
冒認出願に対する対抗策:法的観点
商標を保護し、冒認出願に対抗するための対策には、以下のような方法があります。
商標の早期出願 | 自社のブランド名や製品名が他者に無断で出願されることを防ぐ最も効果的な方法は、早期に商標登録を申請することです。商標登録は「先願主義」を採用しているため、登録を申請した日から商標権が発生します。そのため、自社のブランド名や製品名が他者によって出願される前に、早めに商標登録を申請することが重要です。 |
---|---|
商標のモニタリング | 他社による商標出願の情報を常に監視し、自社のブランド名や製品名と類似した商標の出願があればすぐに対応することも重要です。これにより、早期に異議申立てや無効審判の手続きを行うことが可能になります。 |
異議申立て・無効審判 | もし他者によって自社のブランド名や製品名が出願されてしまった場合でも、出願公告後に異議申立てを行ったり、商標が登録された後でも無効審判を行うことにより、その商標の登録を無効にすることが可能です。ただし、これらの手続きには専門的な知識が必要なため、弁理士などの専門家に依頼することが通常です。 |
これらの対策を取ることで、自社の商標権を確実に守り、冒認出願によるリスクを最小限に抑えることができます。
商標権の冒認出願に関する裁判事例
商標権の冒認出願に関する裁判は様々ありますが、以下に3つの代表的な事例を挙げてみます。
-
「SUPREME」商標の争い
ニューヨーク発のストリートファッションブランド「SUPREME」は、自社のブランド名を無断で使用した中国企業に対して訴訟を起こしました。中国企業は「SUPREME」の商標を登録し、偽物商品を販売していました。この事例は、冒認出願によって第三者による不正利用を防ぐことが難しくなる可能性を示しています。 -
「バーキン」商標事件
フランスの高級ブランド「エルメス」のバッグ「バーキン」の名前を無断で使用した日本企業に対して訴訟が提起されました。日本企業はエルメスの許可を得ずに「バーキン」の名前を使った商標を登録し、商品を販売していました。この事件ではエルメスが勝訴し、「バーキン」の商標は無効とされました。 -
「IPHONE」商標訴訟
中国の革製品メーカーが「IPHONE」の商標を登録し、これに対してAppleが異議申立てを行いました。AppleはiPhoneの商標権を主張しましたが、当初の裁判では敗訴しました。しかし、その後の上訴審でAppleが勝訴し、中国企業の「IPHONE」商標登録は無効とされました。
以上の事例からもわかるように、冒認出願はグローバルブランドにとっても大きな脅威となり得ます。このようなリスクを回避するためにも、商標登録の早期申請や商標情報のモニタリングが重要であると言えます。
冒認出願に対抗する流れ
商標権が冒認出願された場合の一般的な対抗手続きの流れは以下の通りです。
-
STEP 1
商標のモニタリング
まずは、自社のブランド名や製品名が他者によって商標登録されていないかを定期的にチェックします。特許庁のデータベースなどを活用して、他社による商標出願情報をモニタリングします。 -
STEP 2
異議申立て
もし他者が自社のブランド名や製品名を出願していた場合、その商標の公告後2か月以内に異議申立てを行うことが可能です。異議申立てには、出願人が商標を使用した実績がない、あるいは出願人が商標を知った上で出願した等の証拠が必要となります。 -
STEP 3
無効審判
もし異議申立ての期限を過ぎてしまった場合や、異議申立てが退けられた場合でも、登録後5年以内であれば無効審判を申し立てることが可能です。無効審判の申し立てには、自社がその商標を先に使用していた等の証拠が必要となります。 -
STEP 4
訴訟
無効審判の結果に不服がある場合、更に裁判所へ訴訟を提起することも可能です。この場合、冒認出願者に対する損害賠償請求なども可能になります。
冒認出願に関する法的対抗策を講じる場合の依頼先選択
冒認出願に対する対策を講じる場合、弁理士と弁護士、それぞれの専門性を理解した上で適切な依頼先を選択することが重要です。
弁理士 | 弁護士 |
---|---|
弁理士は、特許、実用新案、意匠、商標などの産業財産権についての専門的な知識を有し、特許庁に対する出願手続きや異議申立、無効審判などの手続きを行います。冒認出願に対して特許庁での異議申立てや無効審判を行う際には、弁理士の専門的な知識と経験が必要となります。 | 弁護士は、商標侵害などによる訴訟や損害賠償請求など、裁判所での手続きを行います。商標問題が訴訟に発展した場合や、商標侵害による損害賠償を求める場合には、弁護士の依頼が必要になります。 |
商標の申請や異議申立て、無効審判などの手続きを特許庁で行う場合は弁理士に、訴訟や損害賠償請求など裁判所での手続きを行う場合は弁護士に依頼するのが一般的です。
しかし、弁理士と弁護士の間には連携を図りつつ、事案全体の戦略を考える場合もあります。例えば、商標権に関する戦略的なアドバイスや、商標権を巡る紛争が発生した場合の対応策を総合的に考える必要がある場合などです。このような状況では、それぞれの専門家と相談しながら最適な対策を講じることが重要です。
グローバル展開を目指す場合の商標権についての知財戦略
グローバルにビジネスを展開する場合、自社の商標を各国で保護することが重要となります。商標権は基本的に出願を行った国内だけで保護されるため、海外市場に進出する際は各国での商標登録が必要です。以下に、グローバル展開を目指す場合の知的財産戦略を説明します。
商標の事前調査
新たに進出を検討している国で、自社の商標が既に登録されていないか、または似たような商標が存在しないかを調査します。
これにより、商標出願の成功確率を高めると同時に、将来的な紛争のリスクを低減することが可能です。商標の出願戦略
自社のビジネス戦略に基づいて、どの国で商標を出願するかを決定します。主要市場、競合が活動している市場、将来的に進出を予定している市場等を重視して選定します。
また、費用と時間を効率的に管理するために、マドリッド協定やマドリッド議定書などの国際商標制度を活用することも考慮します。商標の維持と管理
商標登録後も、定期的に各国での商標の状況を確認し、必要な維持管理手続を行います。
また、自社の商標を不正に使用している者がいないか、または他社が類似の商標を出願していないかをモニタリングし、必要な法的手続きを行います。知的財産専門家との連携
各国の商標法は異なりますので、弁理士や弁護士と連携し、各国の商標法制度や最新の法令動向を把握しながら適切な知財戦略を練ることが重要です。