国際特許出願の「ユーラシア条約」を解説
ユーラシア特許条約とは、条約加盟国8か国の特許を一括で取得できる国際特許条約。ロシアが中心となり成立した条約で、1995年8月12日から発効しています。主にロシアへの特許出願において、パリ条約やPCTと並び、主要な出願ルートの一つとされています。
ユーラシア特許庁への出願の流れ
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STEP 1
出願
願書はロシア語、その他の種類については任意の言語で出願可能です。その他の書類がロシア語以外の場合には、出願から2ヶ月以内にロシア語の翻訳文を添付しなければなりません。 -
STEP 2
方式審査・特許調査
発明の単一性の基準が満たされているかどうか等が調査されます。 -
STEP 3
出願公開
優先日から18ヶ月満了後に、出願書類や調査報告書が公開されます。 -
STEP 4
審査請求
出願公開から6ヶ月満了前に、実体審査の請求を行います。 -
STEP 5
実体審査
3名の審査官合議体により実体審査が行われます。実体審査の結果、「拒絶理由あり」と判定された場合には、補正や拒絶査定、審判請求などを要します。 -
STEP 5
特許付与
ユーラシア特許庁から特許が付与されます。公告の日から、全てのユーラシア条約加盟国において特許の効力が生じます。
PCT出願への移行についてユーラシア条約は、「PCT条約第45条(1)の広域特許条約」とされています。そのため、PCT出願における受理官庁として、ユーラシア特許庁を選択することが可能です。これにより、PCT出願の国内移行先をユーラシア条約締結国全体とすることもできます。
仮に、ロシアにおいてPCT経由で発明の保護を受けたい場合には、①PCT出願の国内移行先をロシアに指定する、②PCT出願の国内移行先をユーラシア条約締結国全体に指定する、という2つの方法から選べるようになります。
ユーラシア特許庁への出願費用ユーラシア特許庁への出願費用は次の通りです。
出願料 | 860 | |
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審査請求料 | 1発明につき | 860 |
第2発明につき | 660 | |
第3~5発明につき | 330 | |
登録料 | 55 |
なお、特許取得後に、特許の効力を維持したいと希望する場合には、関係締約国ごとに年金を支払うこととなります。
また、これらの費用の他にも、出願書類をロシア語に翻訳する際に翻訳サービス業者を利用する場合には、字数等に応じた翻訳サービス料金がかかります。
加盟国2022年2月現在、ユーラシア条約の加盟国は次の8か国となります。
- ロシア連邦
- アルメニア
- アゼルバイジャン
- ベラルーシ
- カザフスタン
- キルギスタン
- タジキスタン
- トルクメニスタン
かつてはモルドバも含めた9か国でしたが、2012年4月26日にモルドバが脱退したため8か国となりました。
ユーラシア特許庁ルートの特徴ユーラシア特許庁ルートの特徴を明確にするため、他の国際特許ルートや地域特許ルートとの特徴と比較してみましょう。
パリルート・PCTルート・EPCルートの違い
ユーラシア特許庁に出願するルートの他にも、国際特許や地域特許の種類には「パリルート」「PCTルート」「EPCルート」があります。
- パリルートの特徴日本で特許出願を行った後に、希望する国(パリ条約加盟国)を選択し、その国での審査を経て特許を取得します。パリ条約の加盟国は175ヶ国です。
- PCTルートの特徴日本で特許出願を行った後にPCTルートで国際特許出願を行い、国際審査を受けたのちに、希望する国(PCT加盟国)を選択して特許の効力をその国内に移行させる形です。PCTには155ヶ国が加盟しています。
- EPCルートの特徴EPC(欧州特許条約)ルートで取得した特許は、全てのEPC加盟国において発明が保護されることとなります。2016年12月現在のEPC加盟国は、イギリスやフランス、イタリア、ドイツなどヨーロッパ諸国38ヶ国です。ロシアは含まれていません。
国別ではなく条約国全体で特許の効力を持つという点で、ユーラシア特許庁ルートは、パリルートやPCTルートとは異なります。また、加盟国の顔ぶれが異なるという点で、EPCルートと異なります。
海外での特許取得を目指す日本企業は、それぞれのルートの特徴をよく理解の上、より有利なルートを選択すると良いでしょう。