特許や商標の冒認出願とは?対抗措置と対策も解説
特許権や商標権を持たない第三者が無断で出願し、権利を得ることを冒認出願といいます。出願の権利を持つ企業にとって冒認出願は大きな問題であり、適切な対抗措置と防止対策が必要です。
本記事では、冒認出願の概要と詳しい対抗措置、防止対策について解説しています。冒認出願の詳細や対処法を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
冒認出願とは?
冒認出願とは正当な権利を持たない他者が特許権や商標権、意匠権などを出願し、権利を得ることです。例えば、他人の発明を勝手に出願する、商標登録をまだしていない新製品やブランド名を他社が先に出願するなどの例が挙げられるほか、共同開発をしていた会社が勝手に出願していたというケースもあります。
特許における冒認出願と対抗措置
本来、特許を受ける権利とは、発明を完成させた者がもつ権利です。特許を取得するまでのあいだ、発明を保護するためのものでもあります。
この特許を受ける権利は、他人に譲渡することが可能です。そのため、発明を完成させていない者であっても権利を譲渡されれば特許出願は可能であり、この場合は冒認出願にはなりません。
特許における冒認出願の具体的な事例としては、以下のようなものが挙げられます。
- AとBが共同経営者として会社を設立し、Aが発明した技術をBが自身の名義で特許出願をしたケース
- 発明品について特許を受ける権利を譲り受けたと主張するCが、当該特許を無断で出願したDを提訴。裁判にて発明者はCであることが証明され、Dの行為は冒認出願と認められたケース
特許の冒認出願は原則として審査過程で拒絶されますが、審査書類から冒認出願だと判断するのは実際には難しく、そのまま権利化されてしまいます。
真の権利者が冒認出願に気付いたときにとれる対抗措置は、権利取得前(設定登録前)か取得後かで変わります。
権利取得前の対抗措置 特許を受ける権利の確認請求 | 冒認出願された特許が権利取得前であれば、真の権利者は特許を受ける権利の移転を求めることができます。これを、「特許を受ける権利の確認請求」といいます。 真の権利者は、確認訴訟の確定判決を得たのちに、当該出願の出願人名義を変更することができます。 |
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権利取得後の対抗措置① 特許権の移転請求 | 冒認出願によって権利が取得されたあと(設定登録済み)の場合、真の権利者は特許権者に対し、「特許権の移転請求」を裁判所に提起することが可能です(特許法74条)。 この請求が認められ判決が確定したあと、特許権者の移転登録が行なわれます。こうして当該特許権が真の権利者に移転すると、特許権は最初から真の権利者に帰属していたとみなされるのです。 |
権利取得後の対抗措置② 特許無効審判 | 「特許無効審判」とは、特許庁に対して当該特許の無効を求める手続きのことです(特許法123条)。審判が確定して特許が無効になると、当該特許権は初めから存在していなかったことになります。 ただし、第三者が出願した内容は特許公報によって公開済みであるため新規性がなく、真の権利者が再度出願しても特許を取得することはできません。特許権を取り戻したいのであれば、特許権の移転請求を選択するべきだといえます。 |
商標における冒認出願と対抗措置
商標とは、事業者が自社の取り扱う商品やサービスを第三者のものと識別するために使用するネーミングやマークのことです。
商標における冒認出願では、以下のようなリスクがあります。
- 商標権の損失(商標の本来の所有者が商標登録できなくなる)
- 権利行使の制約(商標の使用差し止めや損害賠償を求められる)
- 市場・社会での信頼や評価の低下
実際に起こった事例として下記が挙げられます。
事例1
「Supreme」の模倣品ブランド「Supreme Italia」が複数の国で正式なブランド名として商標登録を行なっていたケース
事例2
多くの商品について中国でも商標登録されていた「無印良品」を、商標の対象となっていない商品について中国の企業が現地で勝手に「無印良品」の商標登録を行なっていたケース
商標はその国の範囲内でのみ保護される属地主義が採用されています。そのため、その国でしか商標登録をしていない製品を狙って海外で勝手に登録されるケースはけして少なくありません。海外での冒認出願は、企業の海外展開に支障をきたすなどして大きな問題となっています。
基本的に、他人の商標を模倣・コピーして商標出願をしても、商標法上そのすべてが冒認とはなりません。冒認となるケースは、周知・著名な商標を他人に無断で出願し、登録をする場合に限ります。
これは、商標は「創作物」ではなくあくまでもさまざまな名称のなかからの「選択物」であり、選択的に使い続けた結果として商標に蓄積された信頼を保護するのが商標権であるという考え方に基づいています。
商標の冒認出願に対する対抗措置としては、消費用登録前であれば情報提供、登録後であれば意義無効審判が挙げられます。
商標登録前の対抗措置 情報提供 | 商標の情報提供制度とは、商標登録の出願中(審査中)に、第三者が特許庁に対して「この商標は登録されるべきではない」として、該当出願の拒絶理由を提供できる制度のことです。 情報提供は自社にとって不都合な商標を、権利が発生する前に手間をかけずに阻止することができます。また、誰でも匿名でできるのも情報提供のメリットといえるでしょう。ただし、情報提供をすることで、その商標が重要であることを競合に知られてしまう可能性があります。 |
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商標登録後の対抗措置 異議申立て | 商標登録前に冒認出願に気付いた場合、当該商標が法律に違反していることを理由として、その取消を求める異議申立てをすることができます。この申立ては登録公報発行日から2か月以内であれば誰でも可能です。(商標法第43条の2)。 申立てには、商標登録異議申立書の提出が必要です。この申立書にて、登録異議の申立ての正当な理由と必要な証拠を提示しなければなりません。具体的には、冒認出願人が当該商標を以前より認識していたうえで出願したことや、当該商標を使用した実績が存在しないことなどを示す証拠などが挙げられます。 |
冒認出願を防ぐための対策
特許権も商標権も、最先の出願人がその権利を得る先願主義が採用されています。冒認出願を防ぐには早期の出願で権利を確立させることが大切です。加えて、商標であれば信頼をしっかり蓄積する必要があります。
また、特許も商標も出願公報を定期的にチェックし、他者による冒認出願がされていないか確認しましょう。加えて、自社の情報を他人に知られないようにするための秘密保持も重要です。
まとめ
冒認出願は企業にとって大きなリスクをもたらす可能性があります。対抗措置は複数ありますが、一番大切なのは冒認出願を防ぐための早期出願や定期的なモニタリングです。
また、冒認出願されてしまった場合は弁理士や弁護士と連携し、迅速かつ適切な対策を取るようにしましょう。事前に信頼できる弁理士・弁護士事務所を見つけておくことも大切です。