Newsletter 2022年12月号
アップル製品とデザイン経営
上記は、意匠登録公報から引用した画像なのですが、どこの企業の製品であるかお分かりになりますでしょうか。
大半の方は、「アップル」の「iPhone」と回答されると思います。(①意匠登録第1713074号、②意匠登録第1616586号 意匠権者:アップル インコーポレイテッド)「アップル」は、これまでに、「iMac」、「iPod」、「iPhone」、「Apple Watch」などを手掛け、技術的な革新だけでなく、それまでの電子機器にはなかった斬新なデザインで、世界中の注目を集めました。「アップル」の共同創業者の一人であったスティーブ・ジョブズが工業デザイナーであったことは有名です。
彼は、"シンプル"なデザインで、他社との差別化をはかり、「アップル」ブランドを確⽴しました。特に初代の「iPhone」は、液晶画面の下に丸いボタンが付いたのみの斬新なデザインでした。それまでの携帯電話は、押しボタンでの操作が主流でしたから、従来とは全く異なるスマートフォンの登場に世界は驚かされました。
また、細かい操作説明書や知識がなくても、様々な機能から好きなものを選択できることも「iPhone」の特徴でした。そして、「iPhone」の登場を境に、競業他社は、タッチスクリーン式のスマートフォンを作らざるを得ない状況になり、スマートフォンが市場での圧倒的優位性を確⽴したことはいうまでもありません。
従来型の経営においては、研究開発→製品の完成→事業企画→デザインの決定という流れになっていました。
しかし、技術革新が進み、多くの優れた製品が世の中に出るようになり、製品の同質化が急速に進む今日、機能や品質のみで他社製品を圧倒することが困難な時代を迎えています。
欧⽶の企業は、いち早くデザインの⼒をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法、いわゆる「デザイン経営」を取り入れてきました。
「デザイン経営」という⾔葉は日本でもようやく浸透し、 2018年に特許庁は、『「デザイン経営」宣⾔』を取りまとめました。企業は、自社の伝えたい思いを、顧客との接点である商品にデザインを通じて表現し、顧客とのコミュニケーションを取ります。これが、「デザイン経営」の主軸となります。「デザイン経営」の重要性を特許庁では、次のように綴っています。
「顧客が企業と接点を持つあらゆる体験に、その価値や意志を徹底させ、それが一貫したメッセージとして伝わることで、他の企業では代替できないと顧客が思うブランド価値が生まれる。さらに、デザインは、イノベーションを実現する⼒になる。なぜか。デザインは、人々が気づかないニーズを掘り起こし、事業にしていく営みでもあるからだ。供給側の思い込みを排除し、対象に影響を与えないように観察する。そうして気づいた潜在的なニーズを、企業の価値と意志に照らし合わせる。誰のために何をしたいのかという原点に⽴ち返ることで、既存の事業に縛られずに、事業化を構想できる。」※1
※1および図表︓『「デザイン経営」宣⾔』経済産業省・特許庁2018年5月
「アップル」では、最後にデザインを考えるのではなく、ユーザーに必要な機能を突き詰めて考えれば、必然的にデザインは決まってくるという思想を持っています。内部を設計するエンジニアとともに、デザイナーがチームに加わり一緒に外観を作り上げていくのです。※2
さらに、「アップル」のデザイン戦略で最も優れているのは、冒頭でご質問したように、製品の形状を⾒ただけで、それが「アップル」製品であると認識できるところにあります。形状自体が、他社製品との差別化、自他商品識別⼒を有し、デザインを通じて、消費者に購買意欲を起こさせます。つまり、これは、製品自体が商標の機能も果たしているのです。
「アップル」のデザイン戦略は、本体のみにとどまらず周辺機器にもこだわりを持っています。「iPhone」を例にとっても、その付属品である充電用のライトニングケーブル、電源アダプタ、包装用箱、包装用袋まで意匠権を取得しています。また、店頭の商品陳列什器、商品陳列棚/テーブル、携帯情報端末用スタンド等にも意匠登録がされています。米国においては、2013年に「アップルストア」の内装が商標登録されています(米国商標登録No.4,277,914)。因みに、j-PlatPatで「アップルインコーポレーテッド」(識別番号検索)で意匠を検索すると、1,483件の国内公報が⾒つかります。(2022年11月25日時点)
「アップル」が重視してきたのは、製品の外観のみではなく、自社製品とユーザー(顧客)とのあらゆる接点です。製品を実際に使って生活することで、ユーザーに豊かな体験を供給し、高いブランドロイヤリティーを獲得することに成功しました。
2020年の改正意匠法では、それまで「物品」に限られていた意匠権の保護対象を拡充し、新たに「画像」、「建築物」、「内装」のデザインについても登録ができるようになりました。また、意匠権の存続期間の延⻑、関連意匠制度の拡充、組物の意匠の拡充(組物の部分意匠が登録可能に)もされました。これら新たな意匠制度を通じ、今後、デザインを経営に用いる手法はますます拡大していくでしょう。
※2 泉秀一NewsPicks 『アップルが守り継ぐ5つの掟本当のデザインの話をしよう#02 第2回【独自】デザインで大切なことは、全て「アップル」に学べ』(2019/2/5)
https://newsPicks.com/news/3637512/body/ 閲覧日時:2022/11/25
「R-1」、「LG21」3条2項の適用を受け商標登録
2022年11月9日付けの㈱明治のHPにて、「R-1」、「LG21」を文字商標として商標登録した旨が発表されました。
「R-1」(標準文字商標):登録第6593375号、2022年7月28日登録
「LG21」(標準文字商標):登録第6593374号、2022年7月28日登録
特許庁の審査基準によると、ローマ字1字⼜は2字の次に数字を組み合わせただけの商標は、識別⼒を有しないとされ、商標登録ができないものとされています。今回登録された2商標についても、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」(商標法第3条1項5号)であり、自他商品の識別標識として機能し得ないものといわざるを得ないとの拒絶査定が出ていました。
この3条1項5号は絶対的な不登録事由ではなく、例外的に、使用の結果、全国的な知名度があり、消費者がそれを⾒ただけで「何人かの業務に係る商品⼜は役務であることを認識することができる」ほどの状態になっている旨の証明をすることにより、登録が認められることがあります。(商標法第3条2項)出願人である㈱明治は、当該2商標について、拒絶査定不服審判において、⻑年の使用の結果、取引者及び需要者が出願人の業務に係る商品であると認識することができる状態に⾄っており、商標法3条2項の適用を特許庁へ主張しました。
商標が使用により識別⼒を有するに⾄ったかどうかは、例えば、以下のような事実を総合勘案して判断するものとされています。(特許庁 商標審査基準)
- 出願商標の構成及び態様
- 商標の使用態様、使用数量(生産数、販売数等)、使用期間及び使用地域
- 広告宣伝の方法、期間、地域及び規模
- 出願人以外(団体商標の商標登録出願の場合は「出願人⼜はその構成員以外」とする。)の者による出願商標と同一⼜は類似する標章の使用の有無及び使用状況
- 商品⼜は役務の性質その他の取引の実情
- 需要者の商標の認識度を調査したアンケートの結果
<「R-1」 特許庁の審決>
「請求人は、2009年から、使用商標を使用商品に継続的に使用しており、その販売実績についても、近年において高い販売額及び上位のシェアを維持していることがうかがえる。 また、使用商品の販売地域は全国に及んでいることが認められ、使用商品の宣伝広告も継続的に⾏われていることがうかがえる。 そして、使用商標は、いずれも文字構成が同一で、その態様に特段の特徴があるものではないことから、本願商標と同一視できるものとみるのが相当である。 (略)補正後の商品「ヨーグルト、ヨーグルト飲料」について、2009年から現在に⾄るまで、本願商標を継続して使用していることが認められ、その結果、本願商標は、上記商品については、請求人の業務に係る商品であることを表すものとして需要者の間に広く認識されるに⾄っているというのが相当である。 したがって、本願商標は、商標法第3条第2項の要件を具備するものとして、商標登録を受けることができるものである。」
3条2項は、「識別⼒」がないとされる商標の例外規定であるため、登録に⾄るまでのハードルが非常に高いといえます。一般的に検討している商標が「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」の場合、それにマークを付与したり、文字をモノグラム化させたりして出願をします。そうすることで、3条1項5号が規定する「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」の「のみ」に該当しなくなるからです。
「R-1」、「LG21」が標準文字商標として登録されるに⾄ったのは、テレビCMを全国で放映している点、販売地域が全国に及んでおり、高い販売額及び上位のシェアが勘案されてのことだと思慮されますが、審判の段階で、指定商品を当初の「乳製品」から「ヨーグルト、ヨーグルト飲料」に減縮補正した点も影響していると思われます。
ブランドが確⽴されれば、商標を付しただけで広告宣伝機能を発しますが、ブランドを有名になるまで育て上げるには、多くの企業努⼒と広告宣伝戦略が必要なのだと改めて感じさせる判例でした。
特許情報フェアにご来場ありがとうございました
2022年11月9日~11日に「第31回 2022 特許・情報フェア&コンファレンス」が開催されました。今年は、コロナ渦で3年ぶりの会場開催となり、沢⼭の方がご来場され、大盛況に終わりました。
弊所のブースにも沢⼭の方にご来訪頂きまして、誠にありがとうございました。皆様からお問い合わせを多数頂きました「事務所案内」は、事務所のホームページよりダウンロードできますので、ご覧頂けると幸いです。
3日間の出展の間、特許調査に関するご質問を多く頂きました。特許事務所では、出願前調査を⾏いますが、出願を問わず調査を得意とする事務所はあまり多くないのかもしれません。弊所では、独自の調査部門を有し、専門的で高度な調査を提供を得意としております。
引き続き、クライアントの皆様に寄り添ったサービスを提供してまいりますので、知財に関するご依頼やご相談はお気軽に下記までご連絡ください。
<来場者数 特許情報フェアのHPより抜粋>
11/9 (水)1,834名
11/10(木)2,981名
11/11(金)4,596名 累計9,411名