Newsletter 2023年7月号
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連日うだるような暑さが続いておりますが、お変りなくお過ごしでしょうか。これから一層暑さが厳しくなりますので、くれぐれもご自愛ください。
さて、今月号のニュースレターのトピックスですが、「ビジネス関連発明の出願動向と取得のメリット」、「「G―SHOCK」の初号機が立体商標登録」、「知財収入に優遇税率、経済産業省が導入を検討」についてです。
ビジネス関連発明の出願動向と取得のメリット
福岡県久留米市に本社をおく株式会社サンカクキカクが「店舗型ふるさと納税※『ふるさとズ』」のビジネスモデル特許(特許第7282417号)を取得したことが新聞等で話題になりました。このサービスを利用すると、当該店舗の属する自治体へ寄附を行うことができ、また、「ふるさと納税」の返礼品をその場で受け取ることができます。本発明について簡単に解説します。
(※(株)サンカクキカクの登録商標です。登録第6562398号)
この返礼システムの利用者側の手順は、次のようになります。
- 店舗にあるQRコードをスマートフォン等の端末で読み取る
- 端末上の画面から商品を選択、寄付者の情報及び決済情報を入力
- 「受け取り確認」の画面を店舗スタッフに提示
- 端末の注文完了画面から「店舗受け取り確認」ボタンを押す
- 表示された寄付確認コードを店舗すスタッフに提示
- 商品の受け取り ※1
上記の流れ(本発明の要旨)は、概ね本発明の【請求項1】に表されています。(本発明は請求項数は6まであります。)
【請求項1】
「寄附者が端末を用いて店舗で販売される商品を購入することにより、前記寄附者が当該店舗の属する自治体へ寄附を行うこと、および前記寄附者が当該商品を返礼品として受け取ること、ができる返礼装置であり、前記自治体の情報と、前記自治体に属する店舗の情報および前記店舗の商品情報を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された情報を取得し、前記寄附者の端末へ前記自治体に属する前記店舗ごとの情報が表示された画面および当該表示された店舗が返礼品として扱う商品情報の一覧が表示された画面を含む寄附画面と、寄附が完了した旨を示す画面であり、前記店舗の店員に見せることで、当該店舗の商品を返礼品として前記店舗で受け取ることができる画面と、を表示させる表示手段と、前記店舗の端末へ、当該店舗の商品情報を管理するための店舗用の商品情報管理画面を表示させる第2の管理手段と、を含み、前記第2の管理手段は、前記店舗の端末からの要求に応じて、前記寄附者の端末へ前記店舗の商品情報を表示させることおよび表示させないことを変更するものである返礼装置。」
「本発明の実施の形態に係る返礼システムを示す概略構成図」
※ネットワーク通信網Nを通じて相互に通信可能
上記下線部の補足(発明の詳細な説明より)
店舗にて、「例えば一般消費者がある商品を購入したことでその商品の在庫が無くなった場合、店舗はすぐにその商品を寄附画面に表示させなくすることができ」ます。
特許庁では、上述の例のように、ビジネス方法がICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用して実現された発明を「ビジネス関連発明」と呼んでいます。特許制度は技術の保護を通じて産業の発達に寄与することを目的としていますので、単なるビジネス方法は、どんなに画期的なものであっても保護の対象となりません。一方で、そのビジネス方法がICTを利用して実現されたものであれば、ビジネス関連発明として特許権付与の対象となります。※2
(「ビジネス関連発明自体を主要な特徴とする出願」は、G06Qが主たるFIとして付与された出願です。)※2
ビジネス関連発明は、2000年に生じた出願ブームで急激に増加したあとは、減少傾向でしたが、2012年頃から増加に転じています。また、分野別でみると、サービス業一般(宿泊業、飲食業、不動産業、運輸業、通信業等)、EC・マーケティング(電子商取引、オークション、マーケット予測、オンライン広告等)、管理・経営(社内業務システム、生産管理、在庫管理、プロジェクト管理、人員配置等)、次いで金融が上位を占めており、また、大きく伸びています。※2
AI、IoT技術の発展により新たなサービスが創出され、出願件数の増加は今後も継続されることでしょう。
ビジネス関連特許を取得するメリット
- 競争優位性の確保/市場地位の強化
優位性をもってビジネスを展開でき、他社による模倣を防ぐことができます。
その市場地位を強化できます。 - 資金調達の助け
他社に対して優位性を持つビジネスであることは、投資家に向けてのアピールポイントになります。 - ライセンシングの機会
成功したビジネスモデルは、その特許をライセンスすることで新たな収入源を得ることに繋がります。
引用元:
※1 株式会社サンカクキカク ホームページ 「ふるさとズ」
https://suncackikaku.com/service/furusatos 最終閲覧日:2023.7.18
※2 及び図表 特許庁 ホームページ 「ビジネス関連発明の最近の動向について」
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/biz_pat.html 最終閲覧日:2023.7.18
「G―SHOCK」の初号機が立体商標登録
カシオ計算機が2021年に商標出願していた「G-SHOCK」の初号機の形状が立体商標(登録第6711392号)として登録されました。画像は、J-PlatPatに掲載されているものを転写しています。
本商標は、拒絶査定不服審判を経て登録されていますので、登録に至った経緯を解説します。
まず、本商標は、商標法3条1項3号の拒絶理由に該当すると判断されました。
参照条文:商標法3条1項3号
「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条
第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、
数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」
同号に該当する理由:審決文より引用
「本願商標の指定商品である「腕時計」を取り扱う業界においては、本願商標と同じように、ベルト及び文字を表示する(又は文字盤を配する)ケースからなる形状の商品の取引が行われており、さらに、商品の美観や機能を発揮させるため、ベルトやケース等に様々な装飾を施した商品が製造販売されている実情がある。そうすると、本願商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、単に商品の美観や機能を発揮するために採用し得る立体的形状を普通に用いられる方法で表示したものとして認識する。」
3条1項3号は、記述的商標と呼ばれています。記述的商標は、取引上で普通に使用される表示であるため、識別力がないと考えられています。また、誰もが使用する必要があるため、一個人が独占することは妥当ではないという理由のもと、登録ができないこととなっています。
しかし、このような記述的な商標であっても、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができ」ます。(3条2項)
「G-SHOCK」の立体商標に話を戻しますと、本商標についての3条1項3号の拒絶理由は維持されており、覆すことができませんでした。そこで出願人(請求人)は、審査における意見書及び拒絶査定不服審判請求において、当該立体形状が使用によって識別力を獲得していること、つまり、3条2項の適用により、登録されるべき商標である旨を主張しました。
一般的に、商品にはロゴやブランド名等が記載されていることが多く、消費者は、これらの記載を認識して商品を購入します。本件の拒絶査定においても、「「CASIO」商標及び「G-SHOCK」の文字商標のもとで行われたものと推察されること、本願商標の立体的形状のみが「G-SHOCK」として認識されているわけではない」と指摘されています。(審決文より引用)
他方、商品の形状だけで、商品の出所が判断できるときは、その形状自体に識別力があるといえます。この点について、出願人(請求人)は、本商標に相当する画像を見せ、思い浮かぶブランドを尋ねる調査を行い、「カシオ」や「Gーショック」と回答した人の割合を提示して、形状自体が出所識別力を持つことを主張し、審決において認められました。(調査は16歳以上の男女1100人を対象。自由回答式で55.09%、多肢選択式で66.27%が出願人のブランドであることを認識。)
この他、長期にわたる安定した販売数量、継続した広告宣伝等も識別力の獲得に貢献している事実として考慮されました。
3条2項の適用によって登録された商標として有名なものには、コカコーラの容器(登録5225619号)、ヤクルトの容器(登録4182141号)、「きのこの山」(登録第6031305号)、「たけのこの里」(登録第6419263号)等があります。いずれも長年の使用、販売時実績や広告宣伝等の成果であるので、同項の適用を受けるのは、通常はいささかハードルが高いように思われます。
ちなみに、同項の適用により登録を受けている商標は、登録公報に「商標法第3条第2項適用」との記載がされます。
知財収入に優遇税率、経済産業省が導入を検討
経済産業省は、特許などの知的財産から生じる所得に優遇税率を導入することを検討してます。「イノベーションボックス税制」と呼ばれる制度で、既に欧州各国で導入が始まっており、オーストラリアやアジア諸国でも検討が進められています。
研究開発への投資が長年伸び悩んでいる一方、日本企業の海外への研究開発投資額と拠点数は増加傾向にあります。※ 政府は、優遇策を講じることで研究開発への投資を促し、また、日本への研究開発拠点の誘致を進めたい考えです。
引用元:
※経済産業省 産業技術環境局 技術振興・大学連携推進室「我が国の民間企業によるイノベーション投資促進に関する研究会」 p3-5
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/innovation_investment/pdf/001_05_00.pdf 最終閲覧日:2023.7.18