Newsletter 2024年2月号
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春が近づいておりますが、まだ寒い日が続いております。お風邪など召しませぬよう皆様のご健康と益々のご繁栄をお祈り申し上げます。
さて、今月号のニュースレターのトピックスですが、「米国特許商標庁 AI支援発明の発明者要件のガイダンスを公表」、「弁理士会、AIツールの適切な利活用を促すためのガイドライン作成を決定」、「金 龍(中国弁理士)加入のお知らせ」についてです。
米国特許商標庁 AI支援発明の発明者要件のガイダンスを公表
米国特許商標庁(以下、USPTO)は、2024年2月13日付の連邦官報(Federal register)に、AIの支援を受けて創作された発明の発明者要件についてのガイダンスを掲載しました。
本稿では、当該ガイダンスの内容の重要部分を和訳して紹介いたします。
米国特許及び特許出願に名前が記載される発明者及び共同発明者は、自然人でなければならない
Thaler事件の判示をもとに、特許を取得できるのは、自然人でなければならないと再認識されています。
Thaler事件(Thaler v. Vidal,43 F.4th 1207, 1213 (Fed. Cir. 2022))の概要
2020年4月22日、USPTOは、AIシステムである DABUS(Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience)を発明者とする2件の特許出願について、発明者は自然人に限定されるものとして、出願を却下する決定を下しました。
この判決は、2021年9月2日、バージニア州東部地区連邦地方裁判所の判決でも支持されました。その後の控訴審において、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、「発明者には自然人しかなれず、AIは発明者にはなれない」という判示を支持しました。具体的には、35 U.S.C. 100(f)は、発明者を「個人、または共同発明の場合は、発明の主題を発明または発見した個人の集合体」と定義していると述べました。また、「個人」という言葉は、法律で使用される場合、議会が別の意味を意図した何らかの指示をしない限り、通常、人間を意味すると判断しました。特許法には、このような指示は何もなく、かえって、「個人」が自然人を指すという結論を支持する文言が含まれているとしました。
したがって、発明者は自然人でなければならないと結論付けられました。
AI支援発明は、発明者不適格として一律に特許性が否定されるわけではない
AI支援発明に自然人が大きく貢献した場合は、その自然人が発明者または共同発明者として適格であることを妨げるものではありません。
貢献の評価については、「Pannu factors」( Pannu v. Iolab Corp.,155 F.3d 1344, 1351 (Fed. Cir. 1998)、共同発明者性に関する判例)で説明されているように、特許出願または特許で指名された各発明者が、その発明に顕著な貢献をしている必要があるとしています。
「Pannu factors」3要件
(1)発明の着想や実用化に何らかの重要な形で貢献をしていること
(2)貢献が発明全体と比較した場合に不十分でないこと
(3)単に周知の概念や技術の現状を説明する以上の貢献をしていること
AI支援発明における自然人の貢献が顕著であるかの判断は困難な場合があり、明確なテストは存在しません。本ガイダンスは、出願人及びUSPTO審査官が適切な発明者であるか否かを判断するための助けとなるよう、AI支援発明における「Pannu factors」の適用に役立つ原則の非網羅的なリストを以下のとおり示しました。
指針
- 自然人が発明の創作にAIを利用しても、発明者としての貢献が否定されるわけではない。自然人がAI支援発明に大きく貢献した場合、その自然人を発明者または共同発明者として記載することができる。
- 問題を認識したり、追求すべき一般的な目標や研究計画を持つだけでは、着想のレベルには達しない。AIに問題を提示しただけの自然人は、AIの出力から特定される発明の適切な発明者または共同発明者ではない可能性がある。しかし、AIから特定の解決策を引き出すために、特定の問題を考慮してプロンプトを構成する方法によっては、顕著な貢献が示される可能性はある。
- 発明を実施に移すだけでは、発明者であることを示すほどの顕著な貢献にはならない。したがって、AIの出力を発明として認識・評価するだけの自然人は、特に、その出力の特性や有用性が当業者にとって明らかである場合には、必ずしも発明者ではない。しかし、AIの出力を利用し、その出力に多大な貢献をして発明を創作した者は、発明者となり得る。あるいは、特定の状況においては、AIの出力を用いて実験を成功させた者は、発明が実施に移されるまで、その者が着想を立証できなくても、その発明に対して多大な貢献をしたことを証明することができる。
- クレームされた発明が導かれる重要な構成要素を開発した自然人は、クレームされた発明の着想に至った各活動に立ち会わず、また、参加しなかったとしても、当該着想に重要な貢献をしたとみなされる場合がある。状況によっては、特定の解決策を引き出すための特定の問題を考慮してAIを設計、構築、または訓練する自然人が発明者になる可能性があり、この場合、AIの設計、構築、または訓練は、AIを用いて創作された発明に対する重要な貢献となる。
- 5.AIに対する「知的支配力」を維持することは、それ自体で、そのAIを使用して創作された発明の発明者になるわけではない。したがって、発明の着想に多大な貢献をすることなく、単に発明の創作に使用されるAIを所有または監督しているだけでは、その者を発明者とすることはできない。
なお、当該ガイダンスの変更や追加ガイダンスの要否を判断するため、2024年5月13日まで意見募集を行うと発表されています。※1
引用/参照元:
米国特許商標庁(USPTO)「Inventorship Guidance for AI-Assisted Inventions」2024年2月13日
https://www.federalregister.gov/documents/2024/02/13/2024-02623/inventorship-guidance-for-ai-assisted-inventions
JETRO NY 知的財産部 蛭田、福岡 「USPTO、AI の支援を受けた発明の発明者適格に関するガイダンスを発行」 2024年2月13日
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2024/20240213.pdf
※1 米国特許商標庁(USPTO)「Director's Blog: the latest from USPTO leadership」2024年2月12日
https://www.uspto.gov/blog/director/entry/ai-and-inventorship-guidance-incentivizing?utm_campaign=subscriptioncenter&utm_content=&utm_medium=email&utm_name=&utm_source=govdelivery&utm_term= 最終閲覧日:2024年2月19日
弁理士会、AIツールの適切な利活用を促すためのガイドライン作成を決定
昨今、特許出願の明細書作成や、弁理士業務をサポートするAIツールが各社から提供されています。新たな環境への弁理士業務の適応が急増する中で、弁理士会では、これまで、広く情報を収集するとともに、生成AIの諸問題に関するものや、AIツールの活⽤による業務効率化を紹介など、様々な研修を開催してきました。※1
この度、1月29日に開かれた、産業構造審議会 知的財産分科会 第20回弁理士制度小委員会の議事録によると、弁理士によるAIツールの適切な利活用を促すためのガイドラインを作成することが決まりました。
ガイドライン等、新たな情報がでましたら、お知らせいたします。※2,3
引用/参照元:
※1 日本弁理士会「最近の日本弁理士会の取組」令和6年1月29日
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/benrishi_shoi/document/20-shiryou/04.pdf
※2 特許庁「産業構造審議会 知的財産分科会 第20回弁理士制度小委員会議事要旨」最終閲覧日:2024年2月19日
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/benrishi_shoi/20-gijiyoushi.html
※3 特許庁「第20回弁理士制度小委員会議事次第・配布資料一覧」最終閲覧日:2024年2月19日
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/benrishi_shoi/20-shiryou.html
金 龍(中国弁理士)加入のお知らせ
2024年1月25日より、中国弁理士の金 龍が弊所に加入いたしました。
金 龍弁理士は、2006年4月に岐阜大学地域科学部に入学し、2010年に卒業後、岐阜大学大学院で工学研究科物質工学を専攻し、2015年3月に博士号を取得しました。
2015~2016年に大学や会社の研究員として勤務した後、2017~2023年に国内の特許事務所で主に日本国内出願及び中国出願を担当しました。
2017年に、中国弁理士試験に合格して弁理士登録。
2018年に、中国司法試験合格。
2023年に、日本弁理士試験に合格して研修中です。
化学とAI技術などの領域横断的な技術分野の案件は勿論、外国案件、特に中国案件において、自分の専門分野に加え、中国特許実務経験を充分に活かすことで、お客様に中国実情に沿った技術案等を提案することが可能です。
経歴
2015年大阪府立大学理学研究所 博士研究員2015~2016年日本国内企業 研究本部2017~2023年日本国内特許事務所
学歴
岐阜大学大学院工学研究科物質工学専攻修了 博士(工学)
金弁理士を迎えたことを契機に、これまで以上に充実したサービスを皆様にご提供できるよう、
事務所一同努めてまいります。