Newsletter 2024年3月号

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ご挨拶
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桜の季節の到来となりました。吹く風にも春の爽やかさが感じられるこの頃、皆様におかれましては、お健やかにお過ごしのことと拝察いたします。

さて、今月号のニュースレターのトピックスですが、「令和6年4月1日施行 商標法改正」、「審査請求料の減免制度利用に件数制限」、「茨城県警が特許法違反容疑で男を逮捕」、「2023年の国際特許出願件数が14年ぶりに減少」についてです。

令和6年4月1日施行 商標法改正

令和5年6月14日に公布された「不正競争防止法等の一部を改正する法律」に基づき、4月1日より、商標法が改正されます。具体的には、他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和、コンセント制度が導入されます。

他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和

これまで、商標の構成中に他人の氏名を含むものは、その他人の氏名の知名度等にかかわらず、同姓同名全員の承諾が得られなければ商標登録を受けることができませんでした。(商標法第4条1項8号)

今回の改正で、「他人の氏名」に一定の知名度の要件と、出願人側の事情を考慮する要件(政令要件)を課し、他人の氏名を含む商標の登録要件を緩和しました。

知名度の要件
「他人の氏名」について、他人による商標登録により人格権侵害が生じる蓋然性が高い、商標の使用をする商品又は役務の分野の需要者の間に広く知られている氏名としました。

<改正後の商標法第4条1項8号>
「他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であって、政令で定める要件に該当しないもの」

政令要件
出願商標に含まれる氏名とは無関係な者による出願や不正の目的を有する出願等の濫用的なものは拒絶できるよう、下記の2要件が課されます。

<新設された商標法施行令第1条>
「商標法第4条第1項第8号の政令で定める要件は、次の各号のいずれにも該当することとする。
一 商標に含まれる他人の氏名と商標登録出願人との間に相当の関連性があること。
二 商標登録出願人が不正の目的で商標登録を受けようとするものでないこと。」

<改正後の4条1項8号の審査の流れ>

改正後の4条1項8号の審査の流れ

コンセント制度の導入

これまで、先行登録商標又はこれに類似する商標であって、当該商標に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似するものについて商標登録出願をした場合には、商標登録を受けることができない旨が規定されていました。(商標法第4条1項11号)

今回の改正で、商標法第4条4項が新設され、同条第1項11号に該当する商標であっても、先行登録商標権者の承諾を得ており、かつ、両商標との間で混同を生ずるおそれがないものについては、登録が認められます。また、同日に二以上の商標登録出願があった場合(第8条)にも、コンセント制度の利用が可能となります。

<新設、商標法第4条4項>
「第一項第十一号に該当する商標であっても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。」

審査段階において、出願人は、先行登録商標権者の承諾及び両商標の間で混同を生ずるおそれがないことを証明する書類の提出が必要となります。審査官は、両商標に関する具体的な事情を考慮して、混同を生ずるおそれの有無を判断します。

コンセント制度の導入

なお、コンセント制度の適用により併存登録された商標について、登録後の混同防止を担保するため、第24条の4第1号及び2号、第52条の2第1項を手当てしています。

一方の権利者の使用により他の権利者の業務上の利益が害されるおそれのあるときは、当該使用について両商標間における混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求(混同防止表示請求)することができます(第24条の4第1号及び2号)。

一方の権利者が不正競争の目的で他の権利者の業務に係る商品又は役務と混同を生ずる使用をしたときは、何人もその商標登録を取り消すことについて、審判(不正使用取消審判)を請求することができます(第52条の2第1項)。

コンセント制度の導入

引用/参照元:
特許庁 商標課「他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和されます」令和6年1月5日 最終閲覧日:2024年3月14日
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/seidogaiyo/shimei.html 
特許庁 商標課「コンセント制度の導入」令和6年1月5日 最終閲覧日:2024年3月14日
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/consent/index.html 
※図面は、上記特許庁のホームページより引用

審査請求料の減免制度利用に件数制限

審査請求料の減免制度は、資金・人材面の制約で、十全な知財活動を実施できない者による発明を奨励する等の目的の下に設けられたものですが、昨今、当該趣旨にそぐわない形での制度利用がなされている実態がありました。

そこで、2024年4月1日以降に審査請求をした出願における審査請求料の減免申請に対して、減免適用に一部件数制限が設けられます。

上限が設けられる対象者
中小企業等
(小規模・中小スタートアップ企業、大学・研究機関等、福島特措法認定中小等は除外されます。)

対象者の詳細は、下記の特許庁ホームページ、または、弊所にお問い合わせください。
https://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/genmen/genmen_240131.html 

上限件数
申請人毎に1年度(毎年4月1日から翌年3月31日まで)あたり180件
本制度の施行日である2024年4月1日以降に審査請求を行った出願が対象となります。
(件数は、原則は申請者本人が管理します。)

カウントの対象
審査請求時の減免申請のほか、手続補正書・誤訳訂正書による補正等(審判段階のものも含む。)により増加した請求項の分の審査請求料の減免申請について減免が認められた特許出願も対象となります
減免件数のカウントは、特許出願毎に1件として行います。
(審査請求時に減免の適用を受けていれば、同一申請人による同一出願の手続補正書・誤訳訂正書により増加した請求項の分の減免件数はカウントされません。)

その他
件数のカウントの順番は、方式審査を経た後、減免が認められた順番となります。
(必ずしも減免申請を伴う手続の申請順にカウントされない可能性があります。)

個々の減免申請がどの年度の件数としてカウントされるのかについては、減免申請した日が属する年度に基づきます。
審査請求時に減免申請をせず、かつ、手続補正書・誤訳訂正書による補正等により増加した請求項の分の審査請求料の減免申請がされた場合は、件数のカウントは、審査請求時ではなく、増加した請求項の分について減免申請した日の属する年度に基づきます。

引用/参照元:
特許庁「審査請求料の減免制度の改正(令和6年4月1日施行)に関するお知らせ」2024年1月 最終閲覧日:2024年3月14日
https://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/genmen/genmen_240131.html

茨城県警が特許法違反容疑で男を逮捕

他人が特許権を持つピアノシューズを無許可で販売した容疑で会社役員の男性が逮捕されました。

<茨城県警による事件の概要>
逮捕容疑:2021年5月13日~22年4月13日の間、仲介業者を通して、他人が特許権を持つピアノシューズ8足をフリマアプリで販売した疑い。
2015年12月~17年6月、被疑者が代表を務める靴製造会社が当該ピアノシューズの製造を受託。
被疑者は特許権者からシューズの製造は受託していたが、販売については受託していなかった。
2022年7月、特許権者から「フリマアプリでシューズが売られている」との相談があり、定価(約2万7000円)の約半額に当たる1万3000~1万5000円で販売されていた。
仲介業者などから販売前の靴約60足を押収。フリマアプリに約100足を販売した形跡があり、余罪を追及。

有名ブランドのコピー商品の販売(商標権侵害)や、動画や漫画などの無断アップロード(著作権侵害)で逮捕者がでるケースは度々ニュース等で見かけますが、特許権侵害で逮捕者がでることは珍しいケースでしたので、今回記事に取り上げました。茨城県警が特許法違反容疑で摘発をするのは記録が残る1989年以降で初めてとのことです。
 
コピー商品の製造販売や、著作物の無断アップロードは、外見で侵害かを判断することが比較的容易であり、被害が甚大な場合には、逮捕・起訴に至ることもあります。最近でいえば、「漫画村」の運営者が有罪判決を受けた事件を想起される方もいるでしょう。他方、特許権の侵害事件は、侵害を疑われた商品等が、特許発明の技術的範囲に属するか否かをまず検討する必要があり、通常は、損害賠償や差止めを請求する際に問題となります。つまり、ほとんどのケースでは、侵害の有無の判断のために技術的な専門知識が必要とされることから、技術の専門家を交えて民事の場で争われることになるのです。通常、捜査機関は専門知識を持ち合わせていませんので、警察官や検事の判断だけでは逮捕することが難しいという点が、特許権侵害事案で逮捕者があまり出ない理由の一つであると考えられます。
 
本件は、過去に特許権者からピアノシューズの製造を委託されていた事業者が、特許権者に無断で商品の販売までしていることから、侵害行為について故意があると認められ、問題となった商品が特許発明の技術的範囲に属することも明らかであることが、逮捕につながったものと思われます。また、特許権者は、フリマアプリで商品を確認し、自己の特許製品であると判断しており、特許製品である靴の形状に特徴があったものとみられますので、捜査機関にとっても、侵害品であるという判断が容易だったのかもしれません。

<参考条文:特許法第196条>
「特許権又は専用実施権を侵害した者(略)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」

引用/参照元:茨城新聞 クロスアイ 「ピアノシューズを無許可販売 特許法違反容疑で男逮捕 茨城県警竜ケ崎署」 2024年3月5日 最終閲覧日:2024年3月14日
https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=17096394339554 

2023年の国際特許出願件数が14年ぶりに減少

世界知的所有権機関(WIPO)が、2023年の国際出願の統計を公表しました。
2023年のPCT国際特許出願の件数は、27万2600件で、前年比の-1.8%と、14年ぶりに減少しました。
また、マドプロ国際商標出願の出願は、前年比-7%、ハーグ国際意匠出願は、中国による出願の拡大に伴い1%の増加となりました。

WIPOのダレン・タン事務局長は、「金利の上昇と経済の不確実性が、2023年のイノベーション活動に影を落としている」、「2024年に予測されるインフレ率の低下や、インドや東南アジアのような"ホットスポット"がビジネスへの自信とイノベーションへの投資をより一層増加させることで、今年後半には国際出願が回復するだろう」、「このような短期的な落ち込みはあるものの、長期的な傾向では、グローバル化、デジタル化が進む経済において、知的財産の利用が着実に増加し、世界中の経済が発展するにつれて、世界中に広がっていることが示されている」と発言しています。 

PCT国際特許出願(国別ランキング)国別PCT国際特許出願の上位15カ国のうち、インド(+44.6%)とトルコ(+8.5%)は、前年比で最も急速に増加しました。インドは、前年の25.9%増に続き、2023年も更に44.6%多くPCT出願をしています。この他、同年に出願件数が増加した国は、オランダ(+5.8%)、フランス(+2%)、韓国(+1.2%)のみでした。

出願人別のランキングでは、1位がファーウェイ・テクノロジーズ(中国)、2位がサムスン電子(韓国)、3位がクアルコム(米国)と続き、日本の三菱電機は4位に入りました。

PCT国際特許出願(出願人別ランキング)

引用/参照元:
WIPO Press Releases 2024 「Huawei, Samsung and Qualcomm are Top Users of WIPO's International Patent System; India, Türkiye and Republic of Korea are Standouts Amid Softening Global Demand」2024年3月7日 最終閲覧日:2024年3月13日
https://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2024/article_0002.html 
※ ランキング表は、上記WIPOホームページより引用

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