Newsletter 2024年6月号

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ご挨拶
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あじさいの花の鮮やかさが雨粒に映える季節を迎えました。皆様におかれましては、一層ご活躍のこととお喜び申し上げます。

さて、今月号のニュースレターのトピックスですが、「「発明者は自然人に限られる」東京地裁が判決」、「「知的財産推進計画2024」が決定」、「スタートアップに向けた知財アクセラレーション事業 公募のお知らせ」についてです。

「発明者は自然人に限られる」東京地裁が判決

 東京地方裁判所は、2024年5月16日、国内書面における発明者の氏名として、「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載した特許出願について、「発明者は自然人に限られる」とする判決を言い渡しました。

 ダバス(DABUS)とは、Dr. Stephen Thaler(スティーヴン・ターラー博士)により開発された人工知能(AI)システムのことで、「The Artificial Inventor Project」の公式ホームページによると、ダバスを発明者とする発明は、欧州、米国、カナダ、中国、韓国など18の国と地域に出願されています。各国における状況については、同ホームページ内で随時更新されています。※1 

 現時点で、南アフリカ以外の国々では、AIは発明者として認められない旨の判決が出されています。南アフリカは、無審査登録制度が採用されているため特許が付与されていますが、同国での状況を東京地裁の判決文では、「南アフリカのCIPC(企業・知的所有権登録局)は、ダバスを発明者とする出願につき具体的にどのように判断したかについて公表していないが、南アフリカの現行特許法及び特許規則には、「発明者」の定義に関するものは見受けられない」と言及しています。※2

 本件は、日本においてAIの発明者適格を争った事案です。


<本事案の概要>

  • 出願人は、欧州特許庁における特許出願を優先権の基礎とするPCT出願(PCT/IB2019/057809)をし、日本への移行手続きに必要な国内書面の発明者の氏名欄に「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載した。(日本での出願番号は特願2020-543051号)
  • 特許庁は、発明者として記載をすることができる者は自然人に限られるとし、本件国内書面に係る提出手続の補正を命じた。
  • 出願人は、上記の補正命令には法的根拠がなく補正による応答は不要である旨を記載した上申書を提出。
  • 特許庁は、国内書面に方式違反があるとして、出願を却下。
  • 出願人は、審査請求をしたが、特許庁は、これをを棄却。
  • 出願人は、本件処分は違法である旨を主張して、本件処分の取消しを求め、東京地裁へ提起。

<東京地裁の判決の概要>

「」は東京地裁の判決文または根拠条文の引用部分であり、符号及び下線は弊所にて付記しております。

知的財産基本法・特許法の解釈

(1)「知的財産基本法は、特許その他の知的財産の創造等に関する基本となる事項として、発明とは、自然人により生み出されるものと規定していると解するのが相当である。」

(参照 知的財産基本法第2条1項)
「この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)...(以下、省略)」

(2)特許法第「36条1項2号が、発明者の氏名を記載しなければならない旨規定するのに対し、特許出願人の表示については、同項1号が、特許出願人の氏名又は名称を記載しなければならない旨規定していることからすれば、上記にいう氏名とは、文字どおり、自然人の氏名をいうものであり、上記の規定は、発明者が自然人であることを当然の前提とするものといえる。」

(参照 特許法第36条1項)
 「特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
  一 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
  二 発明者の氏名及び住所又は居所」

(3)特許法第66条は、特許権は設定登録により発生し、「同法29条1項は発明をした者は、その発明について特許を受けることができる旨規定している。そうすると、AIは、法人格を有するものではないから、上記にいう「発明をした者」は、特許を受ける権利の帰属主体にはなり得ないAIではなく、自然人をいうものと解するのが相当である。」

特許法に規定する「発明者」にAIが含まれるとした場合の不都合

(1)「AI発明をしたAI又はAI発明のソースコードその他のソフトウェアに関する権利者、AI発明を出力等するハードウェアに関する権利者又はこれを排他的に管理する者その他のAI発明に関係している者のうち、いずれの者を発明者とすべきかという点につき、およそ法令上の根拠を欠くことになる。」

(2)特許法第29条2項は、当業者が「前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、進歩性を欠くものとして、その発明については特許を受けることができない旨規定する。しかしながら、自然人の創作能力と、今後更に進化するAIの自律的創作能力が、直ちに同一であると判断するのは困難であるから、自然人が想定されていた「当業者」という概念を、直ちにAIにも適用するのは相当ではない。」

(3)「AIの自律的創作能力と、自然人の創作能力との相違に鑑みると、AI発明に係る権利の存続期間は、AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏まえた産業政策上の観点から、現行特許法による存続期間とは異なるものと制度設計する余地も、十分にあり得るものといえる。」

AI発明に係る制度設計の在り方について

 「AIがもたらす社会経済構造等の変化を踏まえ、国民的議論による民主主義的なプロセスに委ねることとし、その他のAI関連制度との調和にも照らし、体系的かつ合理的な仕組みの在り方を立法論として幅広く検討して決めることが、相応しい解決の在り方とみるのが相当である。」

 ●AI発明の保護に関する特許庁の調査研究:
 特許庁が2024年4月22日付けで公表した「AIを利活用した創作の特許法上の保護の在り方に関する調査研究」では、「現時点において、発明の創作過程におけるAIの利活用の影響により、従来の特許法による保護の在り方を直ちに変更すべき特段の事情は発見されなかった」が、「一方で、AI関連技術は今後更に急速に発展する可能性があるため、引き続き技術の進展を注視しつつ、必要に応じて適切な発明の保護の在り方を検討することが必要と考えられる」とまとめられています。※3

 また、AIによる自律的な発明の取扱いに関する課題については、以下の2点が挙げられています。※3

(1)「創作過程にAIが利用された発明について、現状は発明の創作に人間の関与が一定程度必要であることから、発明の技術的特徴部分の具体化に創作的に関与した者を発明者とする現行の発明者要件の考え方で対応可能であるという意見が多数であることが確認された。」

(2)「今後AIが更に発展し人間の関与が小さくなったとしても、創作的に関与する者がいる限り、その者を発明者として認定すれば良いという指摘もあった。」

 上記の調査結果を見るに、現状、発明の創作には人間の関与が一定程度必要とされていることが分かります。しかしながら、昨今の目覚ましい生成AI技術の向上を鑑みると、AIが自律的に創作した発明の保護の在り方についてのルールが速やかに策定されることが望まれます。

 なお、東京地裁は本判決文の最後に、AI発明については、現行法の解釈では限界があり、「特許法にいう「発明者」が自然人に限られる旨の前記判断は、上記実務上の懸念までをも直ちに否定するものではなく、原告の主張内容及び弁論の全趣旨に鑑みると、まずは我が国で立法論としてAI発明に関する検討を行って可及的速やかにその結論を得ることが、AI発明に関する産業政策上の重要性に鑑み、特に期待されているものであることを、最後に改めて付言する」と法律の改正の必要があることを示唆しています。

引用/参照元
※1The Artificial Inventor Project 最終閲覧日:2024年6月17日https://artificialinventor.com/patent/
※2東京地方裁判所判決「令和5年(行ウ)第5001号 出願却下処分取消請求事件」https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/981/092981_hanrei.pdf

※3特許庁(調査実施事業者:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社)令和5年度 特許庁産業財産権制度各国比較調査研究「「AIを利活用した創作の特許法上の保護の在り方に関する調査研究」の調査結果について」p15https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/ai/document/ai_protection_chousa/youyaku.pdf
調査報告書の全体版:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 「AI を利活用した創作の特許法上の保護の在り方に関する調査研究報告書」令和6年3月
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/ai/document/ai_protection_chousa/zentai.pdf

「知的財産推進計画2024」が決定

 政府の知的財産戦略本部は6月4日、「知的財産推進計画2024」を決定しました。

 本年度は、今一度、「知的創造サイクル」という原点に立ち戻り、このサイクルを支える高度知財人材の戦略的な育成・活躍という「人材」の視点も入れ、「知的財産の創造」、「知的財産の保護」、「知的財産の活用」、「高度知財人材の戦略的な育成・活躍」の視点ごとに整理がされました。※1

<知財エコシステムの再構築>

知財エコシステムの再構築

(出典):知的財産戦略本部「「知的財産推進計画2024(概要) ~イノベーションを創出・促進する 知財エコシステムの再構築と「新たなクールジャパン戦略」の推進に向けて~」※2 p2

 昨今注目を浴びているAIと知的財産権については、生成 AI と知的財産を巡る懸念・リスクへの対応に関し、AIガバナンスの取組と連動が必要であるとし、技術の進歩と知的財産権の適切な保護が両立するエコシステムの実現を目指し、AI開発者、AI提供者、利用者、権利者等の関係者が、法・技術・契約の各手段を適切に組み合わせながら、連携して機動的に取り組むことの必要性を確認しています。※1

<法・技術・契約の各手段の相互補完性>

法・技術・契約の各手段の相互補完性

(出典):知的財産戦略本部「「知的財産推進計画2024 ~イノベーションを創出・促進する 知財エコシステムの再構築と「新たなクールジャパン戦略」の推進に向けて~」※1  p15

 また、文化庁、特許庁、経済産業省それぞれが所管する知的財産法について、AI 技術の進展等を踏まえた必要な検討を継続し、関係府省庁が連携して周知啓発を進めることとともに、各主体の垣根を超えた共通理解の醸成を図ることも必要であると確認しています。※1

引用/参照元
※1知的財産戦略本部「知的財産推進計画2024 ~イノベーションを創出・促進する 知財エコシステムの再構築と「新たなクールジャパン戦略」の推進に向けて~」 令和6年6月4日 p3,15-16https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/chitekizaisan2024/pdf/siryou2.pdf
※2知的財産戦略本部「「知的財産推進計画2024(概要) ~イノベーションを創出・促進する 知財エコシステムの再構築と「新たなクールジャパン戦略」の推進に向けて~」 令和6年6月 p2https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/chitekizaisan2024/pdf/siryou1.pdf

スタートアップに向けた知財アクセラレーション事業 公募のお知らせ

 独立行政法人工業所有権情報・研修館(以下、INPIT)によるスタートアップに向けたアクセラレーション事業(IPAS事業)の公募が、この度開始されましたので、ご紹介いたします。

 IPAS事業(IP Acceleration program for Startups (IPAS))とは、創業期(シード、アーリー)のスタートアップを対象に、ビジネスを専門とする者と、知財を専門とする者からなる知財戦略プロデューサー(ビジネスメンター・知財メンター)のメンタリングチームが、自らのビジネスに対応した適切なビジネスモデルの構築とビジネス戦略に連動した知財戦略の構築を支援します。
 メンタリング支援は1回2時間程度とし、5か月程度の支援期間の間に10回の実施を想定しています。

応募締切支援期間
募集中~令和6年7月8日(月)令和6年10月頃~令和7年2月頃
次回令和6年11月頃令和7年2月頃~令和7年6月頃

 応募される方は、下記のINPITのサイトから公募要領及び応募フォームを取得し、必要事項をご記入のうえ、「IPASに応募する」からご提出ください。
 https://ipas-startups.inpit.go.jp/

参照元
独立行政法人工業所有権情報・研修館 「「スタートアップに向けた知財アクセラレーション事業(IPAS事業)」への応募」最終閲覧日:2024年6月17日
https://ipas-startups.inpit.go.jp/


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