パテントプールとは?メリット・デメリット、独占禁止法上の問題点をわかりやすく解説

パテントプールとは?メリット・デメリット、独占禁止法上の問題点をわかりやすく解説

多くの技術が特許として認められると、複数の特許権ライセンスを使用する際にそれぞれ契約が必要です。この煩雑な作業を合理的にするものをパテントプールといいます。

うまく活用できれば、イノベーションの加速につながるかもしれません。

ただし、パテントプールはメリットだけでなく、デメリットや独占禁止法上の問題も存在します。

この記事では、パテントプールの基本知識からメリット・デメリットなどを解説します。

パテントプールとは?

パテントプールとは、1つもしくはそれ以上の特許を複数者の個人や企業で使用できるようにする仕組みを指します。「patent(特許)」と「pool(貯水池)」 を組み合わせた言葉です。

パテントプールを利用すれば、特許権者の権利を守りつつ、特許の利用を促進することができます。なぜなら、特許権者は利用者と個別にライセンス交渉をする手間を省くことができ、特許利用者は一度の契約で複数の特許を利用できるからです。

ここでは、パテントプールの基礎知識についてわかりやすく解説します。

パテントプールの中心となる標準必須特許(SEP)

パテントプールの中心となる仕組みとして「標準必須特許(SEP)」があります。標準必須特許とは、互換性確保のために標準化された技術(標準規格)に対して与えられる特許のことを指します。

例えば

自分が撮った映像を誰かに観てもらいたいと考えたとき、録画再生機器を用いて再生を試みるはずです。
しかし、メーカーごとに映像符号化技術が異なっていると、同じメーカーでないと映像の再生ができません。こうした不便を解消するため、各社の開発基盤を共通化したのが標準必須特許です。

しかし、製品開発時にすべての標準必須特許の許諾を得ようとすると、ライセンス料が高額になるリスクがあります。コストの増加は製品価格にも影響し、普及の妨げとなってしまいます。

こうした問題を解決するため、共同でライセンスを提供する「パテントプール」が導入されました。

パテントプールの仕組み

パテントプールの仕組み

公正取引委員会 によると、パテントプールの仕組みは下記のとおりです。

「パテントプールとは、ある技術に権利を有する複数の者が、それぞれが有する権利又は当該権利についてライセンスをする権利を一定の企業体や組織体(その組織の形態には様々なものがあり、また、その組織を新たに設立する場合や既存の組織が利用される場合があり得る。)に集中し、当該企業体や組織体を通じてパテントプールの構成員等が必要なライセンスを受けるものをいう。」

引用:公正取引委員会「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」

つまり、日本では、「パテントプール=特許の共同管理団体」という考え方です。特許権者は自身が持つ特許を特定の企業や組織などの管理団体に預け、管理団体は特許を集約し、利用者に対してライセンスを提供する役割を果たします。

パテントプールとクロスライセンスの違い

パテントプールとクロスライセンス は、どちらも特許の共有を促進する手段ですが、その仕組みと特許の共有範囲に違いがあります。

クロスライセンスとは

特許権者がお互いの特許の利用を認め合うことです。通常、二者間 または比較的少数の特許者間で特許利用を合意する契約が結ばれます。
一方、パテントプールでは特許の共有範囲を特許権者に限定していません。

クロスライセンス契約は、異業種では成立しにくい特徴があります。近年、1つの技術が幅広い業種や分野で利用されるようになったことから、特許利用の枠組みをより広範にするためにパテントプールが導入されました。

パテントプールが注目される背景

パテントプールが注目される背景

なぜ、パテントプールは注目されるようになったのでしょうか。その背景には、技術の高度化や複雑化、権利処理問題などがあります。

近年、技術の高度化・複雑化が進み、企業間の連携の重要性が増してきました。一部企業だけで技術を独占できる時代は終わり、社外の資源を積極的に活用した技術開発が求められるようになっています。

複数の企業が共通の技術に基づいて開発するには、技術の標準化が必要です。しかし、日米では特許権者の保護を強化する流れが強まる一方、特許を利用したい企業が参入しにくい状況となっていました。

そこで、特許権者と利用者の利害関係を調整する仕組みとしてパテントプールが注目されるようになったのです。

パテントプールのメリット

パテントプールのおもなメリットは、下記の4つが挙げられます。

ライセンス業務を簡素化できる

特許になるような技術を利用したい企業(ライセンシー企業)が多い場合、特許を保有している会社(ライセンサー企業)は各企業に対して個別にライセンス使用についての交渉や契約などの手続きを行なわなければいけません。

しかし、パテントプールでは条件交渉や契約手続きについてパテントプール組織(ライセンス会社)が行なうため、ライセンス関連業務を簡素化できるメリットが期待できます。

紛争回避の効果がある

ライセンス交渉にまつわる紛争としては、以下のものが挙げられます。

  • 利用する技術に特許権ライセンスが本当に必要なのか
  • 特許権が有効か

パテントプールでは、含まれている特許権は有効のものとしており、対象技術に必要不可欠であるものが選定される合理的なものとしてライセンスされています。

一括してライセンスを受けたほうが合理的であり、結果的にライセンス交渉に関する紛争を避けることができます。

市場拡大が期待できる

パテントプールが形成されると技術を使用する企業が増え、結果的に市場拡大につながります。ライセンサー企業としてはライセンス収入の増加、ライセンスを使用するライセンシー企業は売上増加というメリットが期待できるでしょう。

ライセンス料の低減につながる

特許を保有している企業とそれぞれ交渉してライセンス契約を結ぶと、それだけで高額なライセンス料・ロイヤリティが発生します。

パテントプールは支払う金額について合理的な範囲に抑えられるため、ライセンスを使用する側にとってコスト削減につながります。

パテントプールのデメリット

パテントプールには一定のデメリットも存在します。おもなデメリットは下記の2つです。

技術を独占できなくなる

パテントプールを形成すると市場が拡大する一方で、技術の独占ができなくなるデメリットがあります。どこまでパテントプールに提供するのか、特許権により独占するのかを考えることが大切です。

ライセンス料・ロイヤリティが減ってしまう

ライセンス料やロイヤリティが減ってしまうデメリットもあります。

パテントプールは、ライセンスを使用する側にとってはコストを抑えられる仕組みです。一方、ライセンスを持つライセンサー企業にとっては、得られるロイヤリティが個別に交渉・契約するよりも少なくなってしまいがちです。

独占禁止法におけるパテントプールの問題点

独占禁止法におけるパテントプールの問題点

技術革新が大きい情報通信分野などについては、関連する事業者が規格を策定し、広く普及を進めます。これにより、新製品の市場が立ち上がり、需要の拡大が見込まれるでしょう。この一連の流れを標準化活動と呼びます。

しかし、標準化活動では、複雑な権利関係を処理しなければなりません。特許権者にとっては、それぞれのライセンス交渉が大きな負担となります。この問題を解決するのが、パテントプールです。特許権者が共同でパテントプールを形成し、製品の開発や生産に必要な特許を一括して管理することにより問題の解決を図ります。

ただし、パテントプールを運用する際には、一定のルールがあることに注意しましょう。運用方法によっては、独占禁止法に抵触するおそれがあります。

独占禁止法とは?

独占禁止法とは、公正かつ自由な競争を促進する目的で1947年に 定められた法律です。正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」で、独占禁止法あるいは独禁法と呼ばれています。

特定の行為が市場競争を妨げると認められると、違法とされる可能性があります。具体的な規制対象は、以下のとおりです。

  • 私的独占:不当な低価格販売や株式取得などの規制
  • 不当な取引制限:カルテルや入札談合などの規制
  • 事業者団体の規制:競争の実質的な制限や不公正な取引方法をさせる事業者団体の規制
  • 企業結合の規制:競争が実質的に制限されるような合併や株式取得などの規制
  • 独占的状態の規制:50%超 のシェアを持ち、市場競争の硬直が見られる事業者の規制
  • 不公正な取引方法の禁止:公正な競争を阻害するおそれがある行為の規制

こうした違反行為が認められた場合、公正取引委員会は調査を行ない、必要な違反者には公正取引委員会が措置を行ないます。

独占禁止法に抵触する恐れのある行為

パテントプールの運営についても、以下のような行為は独占禁止法に抵触するおそれがあります。

  • 合理的理由なく、特定事業者へのライセンスを拒絶する
  • 合理的理由なく、ほかのライセンシーよりもライセンス料を高額にする
  • 合理的理由なく、規格の利用範囲を制限する
  • ライセンシーに対し、規格技術についてライセンシーが第三者と共同して研究開発を行なうことを制限する
  • ライセンシーが規格技術の改良などによって得られた成果を、当該パテントプールに加えるよう義務づける

ただし、こうした行為をしたからといって、必ずしも独占禁止法違反になるとは限りません。独占禁止法上問題になるかどうかについては、事案ごとに判断することになります。

独占禁止法違反となる事例

ここでは、独占禁止法上の問題となる事例について解説します。

例として

情報通信機器の主要メーカー3社の間で、データ転送を効率化する標準規格の特許についてパテントプールを形成する場合を考えてみましょう。
この規格を用いた製品の市場シェアは8割にいたっているとします。こうした状況で3社は付加技術の特許についてもパテントプールに加えたため、ほかのメーカーは事業撤退を検討することとなりました。

この事例における3社の標準規格の市場シェアは高く、代わりとなるパテントプールは存在しません。したがって、ほかの企業の技術選択の自由を不当に制限するものとして、私的独占に該当するといえます。

参考:公正取引委員会「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」

パテントプールを形成するには?

パテントプールを形成するには?

パテントプールを形成するには、複数のステップを経る必要があります。技術標準の策定から始まり、必須特許とライセンス団体の選定、独占禁止法の審査を経て、ようやくパテントプールが成立します。

最初のステップは技術標準の策定です。特定の分野における共通の基準を定め、技術開発の指針を作ります。

次に、標準必須特許およびライセンス管理団体を選定し、パテントプールの基本的な枠組みを設定します。

パテントプールの成立前には、公正取引委員会のチェックも欠かせません。パテントプールが公正なものであるか、市場競争を不当に阻害するものでないかを確認します。審査を経てパテントプールが成立したあとも、独占禁止法に反しないよう注意して運営する必要があります。

パテントプールの2つのアプローチ

パテントプールを形成するためには、2つのアプローチがあります。

  • 自社から運営企業にアプローチする
  • パテントプール側から参画の提案を受ける

自社の特許が既存のパテントプールと合致するのであれば、パテントプールを運営している民間企業にアプローチできます。

代表的なパテントプール運営企業

代表的なパテントプール運営企業は下記のとおりです。

  • MPEG-LAhttps://www.mpegla.com/
    MPEG-2とその後継であるMPEG-4 VisualやMPEG-4 AVCといった映像フォーマットなどの標準規格について、約1,500社へのライセンス契約を結んでいるパテントプールの代表です。動画再生アプリやBlu-ray/DVDレコーダーに搭載され、広く普及しています。
  • Sisvelhttp://www.sisvel.jp/index.html
    欧州を拠点とする知的財産権を管理している会社であるSisvelでは、通信、音声、映像フォーマットなどの特許に関する管理運営を行なっています。日本ではシズベルジャパンを展開し、グローバルなライセンス提供をしています。
  • Via Licensinghttps://www.via-corp.com/
    LTE必須特許を2つの共同特許ライセンスとして統合しているLTEパテントプールを提供しています。

パテントプールは独禁法に注意してアプローチを

パテントプールにより複数の特許を一括して管理することで、技術の普及と発展が期待できます。特許権者の権利を保護しつつ、利用者が特許を利用しやすい仕組みになっている一方、その運営には独占禁止法への十分な配慮が必要です。

パテントプールを形成するには、特許権者側から運営会社にアプローチするか、パテントプール側からアプローチを受けます。保有する特許に合わせた最適なアプローチ方法を選びましょう。

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